1971
If You Saw Thro' My Eyes : Ian Matthews
|
イアン・マシューズのソロとしてのファースト・アルバム。
メロディは一貫して流暢で、70年代後期のソロのようなポピュラリティの高さは無いが、その分味わい深さがある。
そしてジャズというフィールドで主に活躍していたにもかかわらず、こうした傑作に参加する機会が与えられ程、当時のティペットが英国音楽シーンで注目を浴びていたことを端的にしめしている。
ティペットが参加しているのはギターとピアノのみの ”
Never Ending ” と、バンド編成の ” Southern Wind
” の2曲で、やはり前者でのギターやヴォーカルと絡むピアノの美しさに惹かれる。 後者も悪くないのだが活躍の場は少ない。
同じバンド編成の楽曲なら、大曲 ” Morgan The Pirate ” で彩りを添えるような演奏をして欲しかった。
(追加:2008年5月10日)
Dedicated To You, But You Weren't Listening : The Keith Tippett Group
|
Keith Tippett, Piano/Hohner Electric Piano
Elton Dean, Alto/Saxello
Marc Charig, Cornet
Nick Evans, Trombone
Robert Wyatt, Drums
Bryan Spring, Drums
Phil Howard, Drums
Tony Uta, Drums/Cow Bell
Roy Babbington, Bass/Bass Guitar
Neville Whitehead, Bass
Gary Boyle, Guitar
キース・ティペット・グループの2nd。
Vertigoからのリリース、ロジャー・ディーンによるジャケット等プログレ・アイコンが集まっていることもあり、ソフト・マシーンもカンタベリーもわかっていない私のようなプログレ3級の人間でも知っているポピュラリティの高い作品である。
1曲目から明らかなようにエルトン・ディーン、マーク・チャリグ、ニック・エバンスの3管は強力で、ラッパ嫌い、ジャズ・ロック嫌いの人をも説得するだけの素晴らしい演奏である。 更にその3管の間を縫うように弾きまくるティペットも美しく格好良い。
『 Lizard 』
と同時期のリリースで、レコーディングもほぼ同時期に行われたものと想定されるが、各楽器の音色以外共通点は少ない。 ティペット以外のチャリグ、エバンスがソリストとしての役割を与えられた
『 Lizard 』
と異なり、アンサンブルが強調されていることがその理由と思われる。
ロックだ、ジャズだ、ジャズ・ロックだといったカテゴライズなどどうでも良くなるほどのノン・ジャンルの傑作。
(追加:2002年9月25日)
1969 : Julie Driscoll
|
ジュリー・ティペットが、キース・ティペットと結婚する前のジュリー・トリスコール名義で発表したソロ・アルバム。
ジャズ・ロック+ジュリーのヴォーカルによる曲と弾き語りの曲に大別できるのだが、やはり魅力があるのは前者である。 その中でも特に、バックが殆どキース・ティペット・グループのメンバーでしめる ” A New Awakening
” と ” Walk
Down ” の素晴らしさが著しい。
本作品と前後してキース・ティペット・グループは傑作 『 Dedicated To You, But You Weren't
Listening 』 をリリースしており、その勢いがそのまま反映されたものと思われる。
ジュリー・ドリスコールは、後にジュリー・ティペット名義で 『 Sunset Glow 』
をリリースするが、本作と構成が良く似ており、どちらも素晴らしい内容である。
(追加:2017年3月10日)
1972
Blue Print : Keith Tippett
|
Producer Robert Fripp
キース・ティペット名義の初アルバムであり、且つこの後の Ovary Lodge
としての活動に繋がっていく作品。
キース・ティペット・グループでは特に管楽器系のアンサンブルに事前の約束事を見出すことができたが、ここで聴くことができる演奏にはその要素を見出すことは難しく、良い意味で整合感が全く無い作品となっている。
しかも出音の静騒とは関係なく、提示されている音は果てしなく過激で、ティペットのピアノ・ソロ・アルバムと同じく聴き終えると疲労感を覚える程の作品である。
プロデューサーとしてのフリップが、この手の音をまとめるのに長けているとは思えず、むしろ本作品から得たものを、この後の 『 Larks'
Tongues In Aspic 』 に活かしていると言って過言ではない。
(追加:2016年5月10日)
1973
Ovary Lodge : Ovary Lodge
|
Keith Tippett, Piano ( Zither on Tropic Of Capricorn )
Roy Babbington, Bass
Frank Perry, Percussion ( Piano Interior on Tropic of Capricorn )
Producer Robert Fripp
キース・ティペット名義の 『 Blue Print 』 に続く作品と位置づけられる
オヴァリー・ロッジ名義の作品。
ジャケットにフィーチャーされているフランク・ペリーのパーカッション・セットの圧倒されるほどの物量から想像できる通り、ティペットのピアノとのインタープレイを堪能することができる。
個々の打音の激しさに依存するのではなく、ティペットとペリーが真摯に向き合ったインプロの成果が、凄まじい情報量を提供する作品として提示されている。
そして、ミックスによるものなのか私のオーディオ・システムのプアな再生能力によるものなのか、多分その両方にも問題あると思うのだが、ピアノの音とパーカッションの音が区別つかなくなることがあり、それはそれで本作品の素晴らしさを強調している。
フリップがプロデューサーとして関与しているが、多分名義貸し以上の貢献は全く無いはず。
(追加:2016年5月10日)
1974
Innovation : Amalgam
リリースは1975年
Trevor Watts - alto saxophone
John Stevens - drums
Kent Carter - bass
Lindsay Cooper - bass
Keith Tippett - piano
Terri Quaye - congas
Recorded At Chipping Norton Studios, Oxfordshire 12.11.74.
トレバー・ワッツを中心に活動していたアマルガムの作品に、キース・ティペットが参加している。
1970年代前半におけるティペットのジャズ・ロック・バンドとしての活動は、キース・ティペット・グループ、オヴァリー・ロッジ、そしてエルロン・ディーンズ・ナインセンスがあるのだが、これらのバンドと異なる人脈の中でティペットは演奏していることになる。
サックスのメロディやコンガの使い方にユーモラスを感じる一方、総じて緊張感はない。 勿論ティペット自身はいつも通り弾きまくっているのだが、この人脈での演奏にティペットとして納得感がなかったのか、この後のリリース作品は限られている。
リリースされていないだけのライヴ音源があるのなら、もう少し聴いてみたいとは思う。
(追加:2022年6月10日)
Dance : Arthur Brown
|
アーサー・ブラウンが、キングダム・カム解散後に発表したソロ・アルバム。
セールス的には多分殆ど成果を出すことができなかった作品だが、内容は判りやすくプロモーションのやり方次第ではもう少し何とかなったのではないかと思える内容である。
ただ総じてシンセサイザーの音色と音量がバックの演奏と馴染んでおらず、一聴するとそれが面白く感じられるものの、聴き続けていると違和感だけが残ってしまう。
「 t 」 が一文字少なくクレジットされているティペットは、ヴォーカルのバック、インスト・パートと活躍場面が多く与えられている。
特にヴォーカルとの絡みで聴かせる演奏は、「もちろんこんなの簡単にこなせるけど、興味ないだけだよ」という余裕さえ感じさせられる。
(追加:2018年5月10日)
TNT : Stan Tracey & Keith Tippett
リリースは1976年
Keith Tippett ( Piano ) Left Channel
Stan Tracey (
Piano ) Right Channel
Recorded live in London at The Wigmore Hall 1974 December 21
2013年に亡くなったスタン・トレイシーと、キース・ティペットによるデュオ・アルバム。
左右にはっきりと振り分けられた編集がなされているが、集中して聴いていないとソロ演奏なのか、デュオ音声なのか、それとももっと大勢のピアノ奏者で同時に演奏しているのか判らなくなる程、一枚の音の壁が攻めてくるような印象がある。
お互いの様子を伺っているようには見えないが、相手を無視しての演奏もない。
本作品がリリースされた背景も判らないが、20歳も年が違う2人がライヴ・レコーディング一発で、こうした作品を生み出せるところに只々驚いてしまう。
(追加:2019年3月10日)
1975
Listen / Hear : Nicra
Nick Evans Trombone
Radu Malfatti Trombone
Keith Tippett piano
Buschi Niebergall bass
Makaya Ntshoko drums
This music was recorded by Österreichischer Rundfunk, Innsbruck, Austria on 22 October 1975
後にエルトン・ディーンズ・ナインセンスでも共演することになる、ニック・エバンスとラドゥ・マルファッティによる作品。
トロンボーン奏者2人という編成は、複数種の管楽器がフィーチャーされているエルトン・ディーンズ・ナインセンスと比べると多彩さには欠けるが、単調な所はなく長尺の2曲を一気に聴かせてくれる。 アルバムとしては本作品しかリリースされていないが、ライヴ活動は他に行っていなかったのだろうか? 他にも音源が残っているのなら是非聴いてみたいと思わせるだけの内容である。
ジャズ・ロックの領域でのキース・ティペットの演奏は相変わらず素晴らしく、管楽器と見事に対峙している。 ただ尺の都合上しょうがなかったのかもしれないが、” Listen ” を分割しているのがティペットによるピアノ・ソロの最中ということだけが悔やまれる。
(追加:2021年7月10日)
Which Way Now : Harry Miller's ISIPINGO
|
リリースは2006年
Nick Evans trombone
Mongezi Feza trumpet
Harry Miller bass
Louis Moholo drums
Mike Osborne alto sax
Keith Tippett Piano
Recorded at Post-Aula, Bremen, Germany on November 20, 1975.
ハリー・ミラーズ・イシピンゴ名義の作品。
3管+ピアノ+リズム隊という編成はキース・ティペット・グループと同じなのだが、トローンボーン、トランペット、サックスの活躍度が高くティペットのピアノが目立っていないことで、印象は大きく異なる。
長尺ながら勢いがある楽曲ばかりなので、ここにティペットのピアノが縦横無尽に絡んだらとんでもないことになっていたと思えるだけに、そうしなかった理由がよく判らない。
もしかしたら、ピアノの音自体が小さいのもミキシングの問題ではなく、そもそもステージ上の音のバランスが悪いことに起因しているのかもしれない。
(追加:2020年3月10日)
Sunset Glow : Julie Tippetts
|
ジュリー・ティペッツがキース・ティペットと結婚後にリリースしたソロ・アルバム。
ジャズ・ロック・バンドをバックに演奏した演奏、弾き語り、そしてティペットとのデュオと、良い意味で想像しうるパターンを全て出している作品。
こういう作品に対して「やはり夫であるティペットとのデュオ ” Shifting Still ” が一番素晴らしい」と言ってしまうのが一番簡単なのかもしれないが、マーク・チャリグ、エルトン・ディーン、ニック・エヴァンスといったホーン・セクションが入った
” Mind Of A Child ” や ” Ocean And Sky ( And Questions Why ? ) ” といった楽曲の方が、素晴らしかったりする。
この辺り、音楽に対する二人のストイックさが現れているのかもしれない。
なんて、結論も安易かもしれないけど...
(追加:2012年7月25日)
Ovary Lodge : Ovary Lodge
|
リリースは1976年
Keith Tippett Piano, Harmonium, Recorder, Voice, Maracas
Harry Miller Bass
Frank Perry Percussion, Voice, Hsiao ( Chinese bamboo flute ), Sheng
( Chinese bamboo mouth organ)
Julie Tippetts Voice, Sopranino Recorder, Er-hu ( two-stringed
Chinese violin )
Live recording at Nettlefold Hall, London SE17, 6 August 1975
オヴァリー・ロッジの、前作と同じくバンド名をタイトルにしたライヴ・アルバム。
ライヴ・アルバムであること、ベース奏者がハリー・ミラーに変わったこと、ジュリー・ティペットが参加していることが前作との違いなのだが、キース・ティペットとフランク・ペリーの絡みが作品の根幹を成していることは変わりない。
にもかかわらす、ライヴを収録した本作よりスタジオ作品の前作の方が完成度が高いことが興味深い。
ライヴでのインプロがそのまま収録された本作の方が、緊張感は高いはずなのだが何かが足りない。 勿論これはキース・ティペットの作品に求めるレベルが高すぎることに起因するのだが、一方でインプロであることを徒に礼賛することなく正しく感じた事実である。
(追加:2016年5月10日)