『 Epitaph 』 は、先ず2枚組として Volume One と Volume Two
がリリースされた後、DGMから通販で Volume Three と Volume Four
を含めた4枚組がリリースされ、さらに日本においてのみ Volume
Three と Volume Four を2枚組とした 『 Epitaph Volumes Three & Four 』
がリリースされている。
インプロ度が少ない分曲の重複度が高く、『 The Great Deceiver : Live 1973-1974 』 と比べ連続して聴いているとちょっと飽きてくるところもあるが、それでもやはり貴重な演奏の連続。 この演奏を聴くことができることを素直に喜ばなければならない。 ただ、フェスティバル等で他のバンドと共演した
( =演奏時間が短かく曲数も少ない ) Volume Two や Volume Three は完全収録されているものの、単独でのライヴであった
( =演奏時間が長く曲数も多かったはずの ) Volume Four が、音質の問題でカットされた曲があり完全収録されていないのが残念。
ブックレットは相変わらず豪華で、貴重な写真や当時のメンバーやクルーのコメントてんこ盛りで資料性も高い。
Robert Fripp guitar
Ian McDonald woodwind, keyboards, mellotron, vocal
Greg Lake bass guitar, lead vocal
Michael Giles drums, percussion, vocal
Peter Sinfield words & illumination
Volume One:
BBC Radio Sessions
- 21st. Century Schizoid Man ( Fripp, Lake, McDonald, Giles, Sinfield ) /
21世紀の精神異常者
- In The Court Of The Crimson King ( McDonald, Sinfield ) / クリムゾン・キングの宮殿
- Get Thy Bearings ( Donovan arr. Fripp, Lake, McDonald, Giles ) / ゲット・ザイ・ベアリングス
- Epitaph ( Fripp, Lake, McDonald, Giles, Sinfield ) / エピタフ(墓碑銘)
Fillmore East, New York, 21 November 1969
- A Man, A City ( Fripp, Lake, McDonald, Giles, Sinfield ) / ア・マン・ア・シティ
- Epitaph ( Fripp, Lake, McDonald, Giles, Sinfield ) / エピタフ(墓碑銘)
- 21st. Century Schizoid Man ( Fripp, Lake, McDonald, Giles, Sinfield ) /
21世紀の精神異常者
Fillmore Wast, San Francisco, 14 December 1969
- Mantra ( Fripp, Lake, McDonald, Giles, Sinfield ) / マントラ
- Travel Weary Capricorn ( Fripp, Lake, McDonald, Giles, Sinfield ) / トラヴェル・ウィアリー・カプリコーン
- Improv - Travel Bleary Capricorn ( Fripp, Lake, McDonald, Giles, Sinfield
) / インプロヴィゼイション - トラヴェル・ブリアリー・カプリコーン
- Mars ( Holst arr. Fripp, Lake, McDonald, Giles, Sinfield ) / マーズ
- BBC のラジオ・セッションから4曲。
最初の2曲はファースト・アルバムのレコーディング前の5月6日録音で、5月11日放送、後の2曲は8月19日録音で9月7日放送。 ともにスタジオでの収録で、ダヴィングが施されている。(特に”In The Court Of The Crimson King” でのレイクのヴォーカルに顕著)
” 21st. Century Schizoid Man ”
は、最初期のバージョンということもあり、他のライヴ・テイク、スタジオ・テイク比べると、フリップのギター・ソロが稚拙であること、フリップのギター・ソロ後にマクドナルドのサックス・ソロ・パートがあること、ユニゾン・パートのテンポが遅いこと、の3点が大きく異なる。 当時本曲のようなハードな曲においても、主導権を握っていたのがマクドナルドであることがよくわかる。
本曲はイタリアの海賊盤からの復元。
- ” In The Court Of The Crimson King ”
は歌詞の違いが散見するものの、後の演奏とアレンジは殆ど同じ。
前曲と本曲を聴くと、マクドナルド主導で進んいたクリムゾンに次第にフリップ色が濃くなっていき、フリップ色が現れた曲
(” 21st. Century Schizoid Man” )
は大きくアレンジが変わり、フリップ色が出なかった曲 (” In The
Court Of The Crimson King ”)
はアレンジが変わることなく演奏され続けたとも想像できる。
本曲はBBCのマスターからの復元。
- 多分シンフィールドの意向は殆ど反映されていないであろう
” Get Thy Bearings ”
においても、曲の主導はマクドナルドのサックス・ソロ。 ラストにフリップのダウナーなギター・ソロが始まりかけるが、中途半端にフェード・アウト。
本曲はラジオ放送のエア・チェックからの復元。
- ” Epitaph ”
もアレンジの大枠は後の演奏と殆ど同じ。 当時のラジオ番組がどのような性格のものであったかは定かではないが、本曲に限らずスタジオでの編集はかなりなされている。
” In The Court Of The Crimson King ” と同じくBBCのマスターからの復元。 それだけに音は良い。
- 11月21日のニューヨークのフィルモア・イーストでのライヴが3曲。 本ライヴはマイケル・ジャイルズ所有のカセットを復元したもの。
” A Man, A City ” は、『 In The Wake Of Poseidon 』 収録の ” Pictures Of A
City ”
の原曲。 大枠は既に完成しているものの、細かなアレンジ、編曲は異なる。
- ” Epitaph ”
はライヴなだけに粗さは目立つものの、マクドナルドのフルート・ソロには惹かれる所がある。 フリップがアルペイジオ以上にコード・カッティングを多用していることもわかる。
- ” 21st. Century Schizoid Man ”
は、フリップがギター・ソロにトリルを多用 (
多分ピッキングはしていないと思われる )
している所がかわっている。 この段階では、本曲の主導権を握っているのがフリップであることがよくわかる。
- 以下は12月14日、サンフランシスコのフィルモア・ウェストでのライヴ。
” Mantra ”
は、フリップのカッティングとマクドナルドのフルートを中心とした曲。 さほど面白くはない。
- 前曲からシームレスな ” Travel Weary Capricorn ”
は、ヴォーカルとリズム隊の早いバッセージが被さる。
- ” Improv - Travel Bleary Capricorn ”
は、メロトロンのサンプリング音を多用していることが判る。
- ” Mars ”
は、後のスタジオ・アルバムと比べ装飾音が少なく、メロトロンによる主旋律とそれ以外の楽器によるユニゾンというシンプルな曲構成が、不気味さをより強調されている。 途中メロトロンで白玉を弾かず、ハモンドのようなひしゃげた音を出すマクドナルドは特筆に値すると思う。
Volume Two:
Fillmore West, San Francisco, 15 December 1969
- In The Court Of The Crimson King ( McDonald, Sinfield ) / クリムゾン・キングの宮殿
- Drop In ( Fripp, Lake, McDonald, Giles ) / ドロップ・イン
- A Man, A City (Fripp, Lake, McDonald, Giles, Sinfield) / ア・マン・ア・シティ
- Epitaph ( Fripp, Lake, McDonald, Giles, Sinfield ) / エピタフ(墓碑銘)
- 21st. Century Schizoid Man ( Fripp, Lake, McDonald, Giles, Sinfield ) /
21世紀の精神異常者
- Mars ( Holst arr. Fripp, Lake, McDonald, Giles, Sinfield ) / マーズ
- 12月15日のフィルモア・ウェストでの、このラインナップでの最後のライヴ。 ミキシング・ディスクから録音されたテープから復元されているだけに音質は良好。
” In The Court Of The Crimson King ”
は、スタジオ・テイクとほぼ変わらず演奏されていることに、先ず何よりも驚く。 Volume
One
においても述べたとおり、本曲が一貫してマクドナルド主導のもと演奏され続けたことが、アレンジの変更が少なかった理由であると思われるが、とは言えここまで完璧にスタジオ・テイクと同じように演奏できた当時のクリムゾンの演奏力には本当に驚く。
- ” Drop In ” は、『 Islands 』 収録の ” The Letters ”
の原曲。 実際には最後にフリップのギター・ソロがあるらしいが、途中でテープが切れるため、シングルトンによって全て削除されている。 余計なことをしたものである。 演奏はマクドナルドのサックス・ブロウ中心であまり面白くない。 また、歌詞にシンフィールドがクレジットされていない。
- ” A Man, A City ” は、Volume One
収録の11月29日の演奏と同じく全体にラフ。 ラストにヴォーカル・パートが挿入されるなどアレンジが確定していないことがよくわかる。 アメリカ・ツアーを行わずリハーサル、もしくはレコーディングを行っていたら、本曲が完成していたのみならず、解散もなかったのではないかと想像できる。
- ” Epitaph ”
は、多少メロトロンのチューニングがふらつくところがあるものの、ほぼ完全演奏。
- ” 21st. Century Schizoid Man ”
は、やはりトリルを多用したフリップのソロはそこそこに格好良い。 ただしサックス・ソロのバックでのギターはペラペラした情けない音。
- ” Mars ”
は、やはりひしゃげたメロトロンの音が格好良い。 好き嫌いが別れるとは思うけど。
Volume Three:
Plumpton Festival, 9 August 1969
- 21st. Century Schizoid Man ( Fripp, Lake, McDonald, Giles, Sinfield ) / 21世紀の精神異常者
- Get Thy Bearings ( Donovan arr. Fripp, Lake, McDonald, Giles ) / ゲット・ザイ・ベアリングス
- In The Court Of The Crimson King ( McDonald, Sinfield ) / クリムゾン・キングの宮殿
- Mantra ( Fripp, Lake, McDonald, Giles, Sinfield ) / マントラ
- Travel Weary Capricorn ( Fripp, Lake, McDonald, Giles, Sinfield ) / トラヴェル・ウィアリー・カプリコーン
- Improv ( Fripp, Lake, McDonald, Giles, Sinfield ) / インプロヴィゼイション
including By The Sleeping Lagoon ( Coates ) / スリーピー・ラグーン
- Mars ( Holst arr. Fripp, Lake, McDonald, Giles, Sinfield ) / マーズ
- 8月9日のプロンプトン・フェスティバルでのライヴ。 5種類もの海賊盤を元にしているだけに音質はバラバラ。
” 21st. Century Schizoid Man ”
は、ギター・ソロ、サックス・ソロの後、サックスのフリー・パートが少しだけある。 マクドナルド主導の名残か。
- ” Get Thy Bearings ”
では、マクドナルドとフリップがフリーに演奏するパートがあるが、どちらも面白い演奏ではない。 最後のヴォーカル・パートのバックでマイケル・ジャイルズが強引にドラム叩きまくるところがちょっと惹かれる程度。
- ” In The Court Of The Crimson King ”
は、相変わらず完成したアレンジ、演奏。 さすがに同じメンバーで全活動期間を通じて同じように聴かされると飽きてくる。
- ” Mantra ”
は、インプロ云々以前に曲構成自体が未完成で、ちょっと辛い。
- ” Travel Weary Capricorn ”
は、ドラムの早いパッセージが被さるだけ前曲よりちょっとましといった程度。
- ” Improv including By The Sleeping Lagoon ”
もやはり曲として未完成。 曲半ばから最後まで続くマイケル・ジャイルズのドラム・ソロも、あまり惹かれるものではない。 ジャイルズのドラムの魅力は他の楽器と絡んだ時にはじめて活かされるのであって、ソロだけではちょっと退屈。 ドラムの奏法以前に、ブルーフォードとの決定的な違いはここにあると思う。
- ” Mars ”
は、録音の悪さも手伝ってメロトロンの音が潰れまくり、不気味度は最高レヴェルだと思う。 ユーロ・プログレでのメロトロンの対極に位置する音というか、メロトロン幻想をぶちこわす音というか、演奏の凄まじさを良い意味で補う音の悪さ。
Volume Four:
Chesterfield Jazz Club, 7 September 1969
- 21st. Century Schizoid Man ( Fripp, Lake, McDonald, Giles, Sinfield ) /
21世紀の精神異常者
- Drop In ( Fripp, Lake, McDonald, Giles ) / ドロップ・イン
- Epitaph ( Fripp, Lake, McDonald, Giles, Sinfield ) / エピタフ(墓碑銘)
- Get Thy Bearings ( Donovan ; improv. Fripp, Lake, McDonald, Giles ) / ゲット・ザイ・ベアリングス
- Mantra ( Fripp, Lake, McDonald, Giles, Sinfield ) / マントラ
- Travel Weary Capricorn ( Fripp, Lake, McDonald, Giles, Sinfield ) / トラヴェル・ウィアリー・カプリコーン
- Improv ( Fripp, Lake, McDonald, Giles, Sinfield ) / インプロヴィゼイション
- Mars ( Holst arr. Fripp, Lake, McDonald, Giles, Sinfield ) / マーズ
- 9月7日のチェスターフィールドでのライヴ。 ファースト・アルバムのレコーディング直後の演奏となる。 元になったのはフリップ所有のテープ。
” 21st. Century Schizoid Man ”
のギターは、ソロ、バッキングどもやはりまだ中途半端。 本曲がライヴにおいて完成度を高まったのは、アメリカ・ツアーにおいてだと考えて良いのかもしれない。
- ” Drop In ” では、Volume Three
ではカットされていた後半部も、完全収録されている。 とはいえ、曲自体があまり面白くないことには変わりはない。
- ” Epitaph ”
は、相変わらず完璧。 ここまでいくと、曲の完成度とか、ライヴでの演奏能力とか、そういった議論を越えた世界で、ある種のコピーかもしれない。
- ” Get Thy Bearings ”
は、18分にも及ぶ長尺演奏。 とはいえ後半10分以上はインプロ・パート。 一定のテーマ(≠リズム)のもと全員が演奏するのではなく、各自がフリーに演奏するパートが繋がっていくのが、当時のクリムゾンのインプロのパターン。
- ” Mantra ”
は、本作品における最初期の演奏。 この段階から最後まで変化がほとんど無かったことがよくわかる。
- ” Travel Weary Capricorn ” も上記と同じ。
- ちょっとコミカルなギターのカッティングから始まる
” Improv ” は、マクドナルドのサックスのリフは Volume Three
のインプロと同じ。 シングルトンのライナーには、このパートが
『 Lizard 』 収録の ” Happy Family ”
の元ネタになっていると指摘しているが、言われてみればそうも聴こえるといった程度。
- ” Mars ”
は、若干短め演奏。 そのため不気味なメロトロンのリフが少なくちょっと残念。